婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「轟さんは遥さんを知っているのかい?」葛城父が尋ねる。

「一度、お屋敷の方へ匠さんが遊びに連れて来られました」

まさか、酔っ払って担ぎ込まれたとは口が裂けても言えない。

私は「ええ、まあ」と言って曖昧に笑って誤魔化した。

「なんだぁ!二人は随分仲がいいみたいじゃないか」祖父は嬉しそうに言う。

「そうなんですよ、何度かうちにも送りに来てくれて」ママが余計な事を言ったので心の中で舌打ちする。

「私達の知らない所でこの婚約話は随分進んでいたようですね」葛城父も嬉しそうに言う。

葛城の方に恨みがましい視線を向けるが、澄ました顔をしてニコニコと笑っている。

何だかその顔を見ていると無償に腹が立った。

いや!この人は先日まで別の女と旅行に行ってました!その他にも女はとっかえひっかえです!お宅ではどんな教育をされているのか伺いたいもんですわ!

と、大声で叫び出したい衝動に駆られるが葛城夫妻はいい人そうなのでニッコリ笑顔の下に隠しておく。

お茶を飲んで一休みすると、夕飯まではそれぞれの部屋で過ごすべく一旦解散となった。

空良と櫂は家から持ってきた虫カゴと虫取り網を持って庭へと駆けだして行った。

部屋数の都合で、パパ、ママと双子が広い客室を使い、私は一人でシングルルームの部屋が割り当てられた。

荷ほどきが終わると、私は鏡の前で身支度を軽く整えて、ある部屋へ向かった。

ノックをして「遥です」と名前を告げると「どうぞ」という返事が返ってくる。