婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「可愛らしくて元気なお譲さんでよかったよ。奥でお爺様とご両親がお待ちだよ」

葛城父に促されて奥のリビングルームへと向かう。

広々としたリビングルームは天井が高く、部屋の片隅にはグランドピアノまで置かれている。

夕飯の後に余興で何か一曲、何て言われたらどうしよう。

自慢じゃないけど、ピアノは小学校のバイエルでリタイアした。

ガラス戸の外は、ウッドテラスになっていて四季折々の良さを充分に味わえる造りになっている。

祖父と両親も白い布張りのソファーにゆったりと座り、寛いでいた。

「お爺ちゃん!」と言って双子達は祖父へ駆けよって行く。

「よく来たな!空良!櫂」祖父も嬉しそうに目を細めて双子達の頭を撫でる。

「久しぶりね、お爺ちゃん」私は含みのある言い方で腕を組祖父の前に立ちはだかる。

四葉銀行頭取でもある祖父は小柄の孫に見下ろされて肩をビクリと痙攣させた。

婚約の話を強引に進めた負い目があるせいか微妙に視線を合わせない。

「遥…元気、そうだな?」祖父は造りなれない愛想笑いを浮かべる。

「お爺ちゃんもお変わりなく。おばあちゃんは来なかったの?」

「日本は暑いといって、美佐子は先月からオーストラリアに行っている」

私が怒っていないと解ると祖父は若干緊張が解けた様子で言う。

「お飲みものは何かお召し上がりになりますか」見覚えのある上品な初老の紳士に声を掛けられる。

「轟さん、お久しぶりです」私はペコリと頭を下げる。

聞くところによると、今回はお客様が多いので、別荘の管理人夫婦だけでは手がたらず、轟さんも助っ人として駆け付けたそうな。

私と轟さんが親しげに話している様子を見て、葛城父が「おや?」という表情を浮かべる。