婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「何を言ってんだ、俺は」中谷先輩は口元を押さえて赤くなった顔を横に背ける。

テーブルの下で私は手の甲をキュっとつねってみる。痛い、夢じゃない。

「婚約者がいるのに、こんな事言われても困るよな。ごめん、今の忘れて」

中谷先輩は顔を背けたまま言う。

私が嬉しすぎて何も言えないのを困っていると誤解しているようだ。

何か気の利いた事を言いたいけど、頭がパニックで上手い言葉が見つからない。

私はプルプルと首をを横に降った。

「あ、あの、嬉しいです。とてつもなく」

私は小声で言うと真っ赤になり俯く。

まいったな、と中谷先輩はボソリと呟いた。

「実は俺も。今日夕飯に誘ってくれたのもメチャクチャ嬉しかったんだ」

先約あったけど断っちゃった、と付け足し、少年のように二カっと悪戯っぽく笑った。

これが夢なら覚めなければいい。本気でそう思った。


駅での別れ際、「旅行から帰ったら、どっか遊びに行かない?」中谷先輩にデートのお誘いを受ける。

私は嬉しすぎて声が出なくて、ブンブンと首を縦に振る。

「じゃあ、どこいきたいか考えておこう、お互いに」

「はい」頬が緩みきっているのが自分でもわかる。最高にデレデレしているだろう。

「じゃあ、帰ったら連絡ちょうだい」

中谷先輩は私の頭をポンと撫でると、おやすみ、と言って地下鉄へ通じる階段を下りて行った。

私はその後姿を天にも昇るような気持ちで、ウットリと眺めていた。