婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「あ、あの実は…」

家の事情で、合宿に行けなくなったこと、そして私が行かないので瑞希も欠席する旨を私は簡潔に話す。

「それで、キャンセル料とか発生するなら今日お支払いしようと思ってたんです」

「今だったら、まだ大丈夫だよ…でも」と言って中谷先輩は一口ビールを口に含む。

「小森さん達が合宿に来れないとなると、結構男性陣はガッカリするだろうな」

思いがけない台詞に一瞬、心臓が飛び跳ねる…が、ここで早とちりするな、私。「小森さん」ではなく「小森さん達」だ。一人称じゃない。二人称である。

それに中谷先輩は優しい人だから、気を利かせてそんな事をいってくれているのだろう。

「大勢で行くから私達が来れなくても、きっと楽しいですよ」

私は取り繕うように笑みを浮かべる。

「私は合宿を本当楽しみにしてたので、行けなくてすごく残念ですけどね」

目を伏せてチビリとカシスソーダを飲む。

「…何か葛城に言われたの?」

唐突に婚約者の名前が出たので私はカシスソーダを吹き出しそうになる。

「葛城さんは何も言っていません。全然学校でも見かけませんし、私が合宿に行く事すら知らないんじゃないですか」

これは本当。

「じゃあ、葛城は関係ないんだ」

「はい」

これは半分嘘。

「うちはお爺さんがとても権力のある人なので、言う事は絶対なんです」

中谷先輩は婚約の事も知っているのでこの辺の事情も察してもらえるだろう。

「実は俺も残念、個人的に」

私は中谷先輩の言っている意味が解らず、首を傾げた。

「えーと…、本当は合宿なんて乗り気じゃなかった。毎年参加なんてしてなかったし。だけど今年は小森さんが来るかもしれないと思って俺も参加したんだ」

まさかの展開に私は口を半開きにしてポカンとする。