婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

翌日

起きると泣き過ぎて目はパンパンに腫れあがっていた。

鏡を覗きこむと一重まぶたになって、顔立ちが変わっている。

昨日より気分が多少落ち着いたので、合宿に行けなくなった旨を報告すべく瑞希に電話を掛ける。

『私も行くのやめようかな。遥がいないとつまらないもーん』瑞希の反応は想いの他あっさりしたもんだった。

『合宿代が浮いた分、二人でどっか旅行行こうよ』

「いいね!行きたい!行きたい!」瑞希の提案は私の心を明るくした。軽井沢から帰ったら、ランチを食べがてら旅行の計画を立てる約束をする。しょぼくれた夏休みについての悩みはどうやら解消されそうだ。

『問題は中谷先輩よねぇ』

「キャンセルするってメールしておくよ。瑞希の分も伝えちゃて大丈夫?」

『うん、お願い。ありがとうね』瑞希は受話器の向こうで少し黙りこみ、『でもさ』と言葉を続ける。

『メールで伝えるのも失礼じゃない?ここはひとつ、直接会って謝っておいた方がいいと思うな』

「そ、そうかな。でも皆も来る訳だから、私達が来れなくても支障はないんじゃ…」

私の言葉を途中で遮って『って事を口実にして、食事に誘う、ってのはどう?』と瑞希が提案する。

さすが肉食女子、転んでもタタじゃ起きない精神旺盛だ。

無理だよ、と言いかけた時に、「なんで無理なの?」と小首を傾げて沙織さんに尋ねられた事を思い出す。

そうだ、待ってるだけじゃ、何も変わらないんだ。

「それいいね。誘ってみようかな」意外すぎる私の回答に『ええ?!遥?!どうしたの?!』ギョッとして瑞希が聞き返した。

「ちょっとした心境の変化よ。ツマラナイ女の汚名を返上するわ」

『その意気よ!遥』受話器の向こうで力強く頷いている瑞希の姿が目に浮かぶ。

『軽井沢から帰ったら葛城氏の事もあるだろうから諸々の報告待っているわ』瑞希は活き活きした声で言って、電話を切った。