婚約者は突然に～政略結婚までにしたい５つのこと～

「実はな、お爺様の友人とは葛城さんの事なんだ」

「はあ？！」私がデカイ声を出したので双子達が一斉にこちらをを振り向いた。私は何でもないわよ、と言うようにニッコリと笑顔を向ける。

「どういうことよ？！」パパの方に向き直すと眉根を寄せて小声で詰問する。

「婚約話がとりあえずまとまったから一旦両家で顔合わせをしようってことになったんだ。そしたら葛城さんが軽井沢の別荘に招待してくれることになった」

「なんで軽井沢なのよ？！東京の料亭かなんかでやりゃあ済む事でしょ？！」私は眉を吊り上げた。

「葛城さんの方は親睦も深められるよう気を使ってくれたみたいだ」

それは余計なお世話だ。すでに『ツマラナイ女』呼ばわりされる程度にはドラ息子との親睦は図れている。

「葛城代表もお爺様もお忙しい方だから、お二方の日程が合っただけでも奇跡なんだ。まさか此方側の都合で延期してもらうようにも言えないだろう」パパは困り果てたように頭を掻く。

そりゃそうだ。パパ一人の失態のせいで３億円もの金が動くんだから。借りた側が「都合があいましぇーん！」なんて言う権利は、ない。

「…わかった。合宿の方はキャンセルする」私は苦虫をか噛み潰したような顰めっ面で言う。

「遥…！わかってくれるのか」パパは私の手を両手でギュッと握りしめて目を潤ませて私を見上げる。

「仕方ないじゃない」私はパパの手を振り払い、ぶっきらぼうに呟く。

無言のままキッチンを出て行くと、階段を駆け上がって自室に籠った。


ベッドにドサリと倒れ込み頭からタオルケットを被ると目から涙が溢れてきた。

しょぼくれた夏休みの唯一の楽しみだったのに…

中谷先輩と一緒にテニスをしたかったな…

涙は止まることなく頬を伝って布団へポタポタ落ちる。

「う、うわーん！たくみ死ね！」私はとうとう声を上げて泣き出し、全ての憤りを葛城にぶつける。

わんわんとベッドの中で大泣きしているうちに、泣き疲れて私はそのまま眠ってしまった。