婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「常務のご機嫌とりに付き合ってよー。やっぱり喜び組がいないとさ」

匠さんは将軍様か。

思わず心の中で突っ込んだ。

さすが出来る男。要点を押さえており多少の犠牲はモノともしない。

総さまは人垣の前まで来ると私に無理矢理シャンパンボトルを押し付けた。

「はい、これシャンパンね。小森ちゃんは口下手だから常務にお酌して。芦原ちゃんとタッキーは積極的に常務に話しかけるんだよ!」

総さまは売れないアイドルのジャーマネ顔負けの指示を私達に出すと、人垣に割って入っていく。

「これはこれは、どーもー!葛城常務。ほら三人娘も近う寄って」

周りの若い衆を蹴散らして、窓辺の席に座る匠さんの元へと私達を呼び寄せた。

「小坂さん、今日は色々手配していただきありがとうございました」匠さんは二コリと穏やかな笑みを浮かべた。

「いえいえ、こちらこそ。若手同士このように腹を割って話せる機会をいただいて感謝しております」

ほら、小森ちゃん!と言って総さまはチラリと私にアイコンタクトを送った。

「常務、どうぞ」私がグラスにシャンパンを注ぐと、匠さんは思わず頬を緩める。

なんでそんな嬉しそうな顔してんのよ。

私は心の中で苦々しく舌打ちする。

「そういえばー、常務は婚約者がいると伺ったんですけど、本当ですかぁ?」

ユミはニッコリと可憐な笑みを浮かべて尋ねる。

「本当ですよ」匠さんがきっぱりと言い放った回答に周囲がざわついた。

「まぁ!お相手の方が羨ましいわ。常務のハートを射止めた女性がどんな方なのか差し支えなければお話を聞きたいです」

な…何を言ってるんだ、こいつは。

「ちょっとユミ、図々しいわよ」私は慌てて止めに入る。