婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「いつ帰国したの?」

「そーだな、遥が丁度つけ麺を食べに行った頃かな」

私は驚いて身体を引き離す。

「な、なんで知ってるのよ?!」

「相変わらず、会社でも処女キャラみたいだね」

エレベーターに乗り合わせた男性に笑われた事を思い出す。

「あ、あの時、まさかエレベーターにいた?!」

「ニアミスだったな」匠さんは口の端を上げてニヤリと笑う。

「男を引き連れて食べに行ったつけ麺は美味しかった?遥」

匠さんは長い指で私の髪をさらりと梳いた。

「た、たまたま残業後にいたメンバーで行っただけよ」

ふうん、と言って匠さんはスッと目を細める。

「暫く見ないうちに随分綺麗になったから、周りの男も放っておかない、か」

思わぬところで、お褒めの言葉をいただき私は頬を赤く染める。

「匠さんも素敵になりました」

怒っていたハズなのに、照れてつい頬を緩めてしまう。

「そんな顔されると調子狂うな」匠さんは眉を顰めた。

私の頬に手を添えるとそのまま啄ばむ様なキスをする。

「帰って来た事だし、結婚しようか?」

待ち焦がれてた匠さんとの結婚…だけど、素直に喜べない自分がいる。

私は頷くことが出来ず沈黙してしまう。

「もしかして俺が勝手過ぎて嫌になった?」

匠さんが不安気な表情で私の顔を覗きこむ。

「それか、他に好きな男が出来た…とか?」私はブンブンと首を横に振った。

「いや…そうじゃない、違うの。匠さんのことは大好きだし、結婚したいと思ってるわ」

「じゃあ、なんで頷いてくれないんだよ」匠さんは不満気に唇を尖らせた。