婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

恐る恐る振り向くと、匠さんがニッコリ笑顔で給湯室の入り口に立っていた。

「お、おつかれさまでーす」なんとか笑顔を取り繕ったものの、声が明らかに上ずっている。

「常務、コーヒーでも飲まれますか?」ユミは何事もなかったような顔で尋ねる。

「ん、大丈夫。ありがと芦原さん」匠さんが微笑みかけるとユミはホンノリ頬を赤く染めた。

「大声で話しているから、丸聞こえでしたよ。悪口はもっと慎み深く言ってくださいね、小森さん」

「あの…どの辺りから…?」私はチラリと上目で様子を伺う。

「ほぼ全部」匠さんの口角は上がってるけど、目は全然笑ってない…。

私に一瞬鋭い視線を向けると「では、後ほど」と言い残し匠さんは給湯室から去って行った。


席に戻ると常務執行役員からメールが届いていた。

クリックして開いてみる。

『今晩部屋いくねー』

…軽っ。

私はメールを速攻で削除した。