婚約者は突然に～政略結婚までにしたい５つのこと～

「葛城ジュニア。社長の息子らしいわよ」

ユミが言うと香織はなるほどー、と言って納得したように頷いた。

「この度、マテリアル部門の常務執行役に着任致しました葛城と申します」

匠さんは穏やかな口調で自己紹介する。

仕立てのよいスーツをバシっと着こなした堂々たる様は、やっぱりエレガント…。

「以前はアメリカのM＆Lキャピタルで投資部門を担当しておりました。畑違いのマテリアル部門で皆さまのお力添えをいただくようになるかと思いますがよろしくお願い致します」

拍手で向かい入れられて匠さんは深々と頭を下げた。

なんで匠さんがここにいるのよ…

私は拍手をしなが、狐につままれたような気分だった。


朝礼が解散すると、私達三人娘は給湯室に集合する。

「しゃちょーの息子超イケメンだね！」香織が目をキラキラ輝かせて私に同意を求めるが私は「はぁ…そうね」と、生返事をする。

「独身かなー！」香織はハシャギながら言う。

「ちょっと探っとくわ」ユミもキラリと目を光らせる。

「なによー、随分リアクションうっすいじゃない？やっぱりアメリカの彼氏がいるから遥は興味ないの？」香織は不満気に目を細める。

「私あんまりタイプじゃないな、あーゆー人」

あいつ…何も言わずに突然現れるなんて何考えてるだろう。

徐々に冷静さを取り戻すと何だか腹が立ってきた。

勝手にアメリカに行って、長い間放っておいて、そしてまた何も言わずに帰ってきた。

こともあろうか、私の所属する部署の役員になって…。

そしてまた私が地道に築いてきた平穏な生活を奪われるのだろう。

初めてあった頃のように…。