婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

隣の椅子を引き寄せて、ドサリと腰を下ろした。

「見てやるよ」

さっきまでヘラヘラしていた総さまの顔が一瞬で引き締まる。

総さまは目にも留まらぬ早業でバチバチとキーボードを打ちデータを入力し直していく。

私は暖かいコーヒーを飲みながらその姿をジッと見守る…邪魔にならないように。

「おっしゃ!」と言って、総さまは勢いよくEnterキーを叩いた。

「荒々の内容は落としておいた。どーせ正式な書面を取り交わす前の内容確認みたいなもんでしょー」

「あ、ありがとうございます」私はぺこりと頭を下げた。

さすが出来る男。要領を得ていて仕事が驚くほど速い。

「あー腹減ったな」

「ですね…」私は総さまが作成してくれたデータを上書きしながら相槌を打つ。

「小森ちゃん、つけ麺食いにいかね?」

「つけ麺ですか…?」私の目が一瞬キラリと輝く。麺類は大好物だ。

が、しかし総さまと二人で食事というのは何だか気が引ける。

「うちの部の後輩達と行こうって話してたんだ」

「行きます」二人じゃないと解ったら私は即答した。実はお腹がペコペコだ。

総さまはそんな私の様子を見てクスリと笑った。

エレベーター前集合ね、と言って、総さまは自分のデスクへ戻っていった。

私は帰り仕度を整えるとトイレで化粧を軽く直す。

慌ててエレベーター前へと向かうと既に、総さまとその後輩たち二人が待っていた。

「お疲れ」総さまが私に気が付き手をあげる。

「お待たせしてすいません」私はパタパタと駆け寄って行く。