婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「そ…うですか」私は掠れた声を絞り出すように言う。

轟さんの話しによると、葛城父としては、他社である程度の経験と実績を積んだ上で匠さんを葛城商事へ入社させる方針らしい。

要するに、一旦は外の釜の飯を食って苦労をして来いという事だ。

物腰柔らかだけど、やることはなかなか手厳しい。

やはり匠さんの父親だ。

「旦那様は取引先などにも色々と打診していたのですが、匠さま自らNYに本拠を起きます投資銀行M&Lキャピタルへ就職される事を希望されています」

アメリカへ行くのは葛城父の言いつけではなく、匠さんが自ら望んだ事だったんだ。

そんな事を考えていたなんて、側にいたのに全然気がつかなかった。

「そして、今回渡米されたのも最終面談を受けられるためだったようです」

「…まだ決定はしてないって事ですか?」

轟さんはこっくり頷いた。

「しかし最終まで進めば余程の事がない限りは落ちることはないでしょう」

「合格したら、いつ…いつ匠さんはアメリカに行く予定なんですか」

「早くて、9月には。既にこちらの大学の単位は足りているようですので、卒業前にあちらへ行かれる事を検討されているようです」

9月…?あと半年もない…。

私はくらりと目眩がする。

どうしよう…匠さんが遠くに行っちゃうよ。

「明後日、匠さまは帰国されます。今後のことについてゆっくり話されたらいかがでしょうか」

「そう…します。話しづらいことを色々教えていただきありがとうございました」

私は震える手をギュッと握りしめて轟さんに頭を下げた。

こみ上げてくる涙を飲み込むよう紅茶を口に含む。いつのまにか冷めて温くなっていた。