婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

先ほどとは一点して顔面蒼白の私を見て沙織さんはギョッとした表情を浮かべた。

「どうしたの?絵梨にまた意地悪された?」

沙織さんは心配そうに眉根を寄せる。その顔を見ているとなんだか泣きたくなってくる。

「いえ、大丈夫です。ちょっと目眩がして」

私は唇の端を上げて微かに笑ってみせる。

沙織さんには何度も早退するように言われたけど、本当に体調が悪い訳じゃなかったので、そのまま定刻まで働いた。

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バイトが終わり帰宅すると離れではなく本邸へと直行する。

「おや、遥さん、どうされました?」

思いつめた顔をしている私を見て轟さんは驚いたように目をパチクリさせている。

「あの…匠さんがNYに行っちゃうって本当ですか?」

轟さんは、ハッと目を見開くと、暫し考え込むよう口をつぐむ。

それから「立ち話も何ですからお茶にしましょうか」と言って微笑んだ。


私は表情を強張らせたままダイニングテーブルに座る。

轟さんは手慣れた優雅な仕草でティーポットから紅茶を注ぐ。

どうぞ、と言って美しいスミレ模様のティーカップを私の前へ差し出す。

いただきます、と言って一口飲むとふんわりと紅茶のよい香りが鼻腔に広がっていく。

混乱していた私の頭の中も徐々に落ち着きを取り戻して行くようだった。

「匠さまの事はご友人に伺ったのですか?」

轟さんは柔らかな語り口で話し始める。

「以前、匠さんが交際していたガールフレンドに聞きました」

私が少しムッとしたように眉根を寄せると「それは複雑ですね」と言って轟さんはおかしそうにクスクス笑う。

「匠さんがNYでいつから働くのかって聞かれました。もしかしたら絵梨さんの勘違いかもしれないと思って」

切迫詰まった私の顔を見て、轟さんは少しだけ眉根を潜めて困ったように唇の端をあげた。

「残念ながら、間違いではありません」

私の心臓が大きく脈打った。