「いやいや、見事にこの場を収めたな、若奥さん」男は立ちあがり、こちらへ歩み寄る。

歳の頃は30歳前後だろうか。短く刈りあげた髪に鋭く吊った目をしていて、いかにも男っぽい精悍な顔立ちをしている。

男はヒョイッと軽々私を持ち上げて立たせてくれた。

デ…デカ…

思わず私は見上げてしまう。190cmはあるだろうか。身体を傾け私の顔を不躾に覗き込む。

「カワイイ顔して随分気が強いんだな彩がいなかったら口説いてたよ」

大樹はニヤリと笑い私の顔を舐めるように見つめる。

私は警戒の視線を向けた。

「大樹さん、遥さんが恐がってるじゃない」彩さんが大男を諌める。

「まさか…彩さんの婚約者って」私が尋ねると、彩さんは苦笑いを浮かべてこっくり頷いた。

確かに、これは手を焼きそうな男だ。葛城よりも手強そう。

「ほんとーに女くせが悪くってこまってるのよれー」彩さんは大樹の肩をバシバシ叩きながら言う。

やっぱり呂律が回っていないようだ。しかも目が完全に座っている。

「彩…お前酔っ払ってんのか?」

「何言ってんろよ!私はトロピカルなアイスティーしか飲んでないわよ!」

「トロピカルなアイスティー?そんなんあったか?」大樹は眉根を寄せる。

「なんかぁ、ちょっとコーラーっぽい味!」可笑しくもないのに彩さんはケラケラ笑う。

「おい、それロングアイランドアイスティーじゃないのか?」

「ああ!それそれ!なんか変わった味の紅茶で美味しそうだったから」大樹に尋ねられて、私は得意気に答える。

「バカっ!紅茶なんか一滴も使ってない!アルコール度数のメチャクチャ強いカクテルだぞ?!」

「ああ!アレお酒らっらのー!とぉっても美味しかったわぁ」彩さんはキャハハっと陽気に笑う。

「酒乱か…」大樹はボソリと呟いた。

「私の無知で彩さんにお酒を飲ませてしまい、大変申し訳ありませんでした」私は慌てて頭を下げる。

その様子を見て大樹は可笑しそうに声を上げて笑う。

「いいよ、俺は心が広いから、若奥さんの無礼も水に流す」その代わり、と大樹は続ける。