婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

「行っちゃ駄目」

私は葛城の背広をギュッと握りしめた。

「貴方が葛城家を捨てる覚悟がないなら、彼女の後を追うべきじゃないような気がします」

葛城は無言のまま、踏みとどまる。

きっと今すぐにでも絵梨を追いかけて抱き寄せ、涙を拭ってやりたいことだろう。

だけど、それは葛城の言う『お偉いさん』たちが集まるこのパーティーを放棄することを意味する。

跡取り息子、としての信頼は失墜するだろう。

「どうしたー?騒がしかったけどなにかあったかぁ?」修羅場が繰り広げられていたとも露知らず、葛城父がテラスにひょっこり姿を現した。

ナイスタイミング…父。

「なんでもありません」私は腫れた頬を隠して、ニッコリ微笑んだ。

「パーティーだからってあまり羽目を外しすぎないようにな。匠、スピーチの件で話があるからちょっと来い」

「はい」と言って葛城は父の元へと向かう。

「お前なんだその顔は!」葛城父は息子の赤く腫れた頬を見てギョッと目を見張る。

「あー…蚊です。蚊が止まったので自分で殴りました。デング熱とか怖いでしょう」

可哀想に。ショックのあまり言い訳が無茶苦茶だ。

「だからってお前、その顔でスピーチは不味いだろー、スピーチは」

葛城父はぼやきながら息子を会場内へと連れて行った。

二人の姿が見えなくなると、私はそのままへなへなと地面に座りこむ。

「こ、腰が抜けた…」

「遥ちゃん超クールだわ!」彩さんは目をキラキラさせて言う。

その様子を見てテラスの片隅で座っていた男性が突然大声で笑い出した。

な、何なの…私は訝しい視線を向けた。