婚約者は突然に～政略結婚までにしたい５つのこと～

「友人？本気で言っているの？私が匠と付き合っているって知ってるわよね？！」

絵梨は私をギュッと睨みつける。

艶やかな長い髪を下ろし黒いミニ丈のドレスを合わせている。足元の赤いパンプスがアクセントとなり良く似合っている。

まさにお色気たっぷり…。

なぁんて事言ってる場合じゃないか。

彩さんも固唾をのんで事の成り行きを見守っている。

「どうして、絵梨さんが此処にいるの？」私は予期せぬ事態にパニックになりながらも震える声で尋ねる。

「今日、葛城商事の就任会兼匠の誕生日のお祝いがある事を聞いて、知り合いに連れてきてもらったのよ」

絵梨は端っこで小さくなっている男性に視線を向ける。あの方は外務省アジア大洋州局の中野氏だ。

こんなコネクションが絵梨にあったとは意外である。

「婚約者の発表もあるようだからどんな女だろうって一目見に来たんだけど、まさかあなただったとはね」

憎悪に満ちた目で射るように私を見つめる。

「どうして？！どうして他の女と結婚するのよ？！私達ずっと一緒だったじゃない」

絵梨は葛城の胸もとに掴みかかり詰め寄った。

何事かと、周囲の人達が俄かにざわつき、こちらの様子を伺っている。

マズい…これ以上騒ぎが大きくなることは避けたい。

愛する彼女が取り乱す姿を呆然と眺め、思考停止状態だ。

アイツは駄目だ…。

「大きな声で騒ぎたてるのは止めていただけませんか」

私は毅然とした口調で言うと、腹をくくって一歩前に歩み出る。

絵梨はツカツカと私に歩みより私に強烈な平手打ちをお見舞いする。

「匠を返してよ！あんたみたいな冴えない女、匠には全然相応しくない！」

口の中が切れたのか仄かに鉄の味がする。その上、結構な言われようだ。