婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

不安になりチラリと葛城の顔に視線を向けると目が合った。

葛城は柔らかく目元を緩めて小さく頷く。例の絶対的なゴリ押しスマイルではなくて、私を安心させてくれる優しい眼差しだった。

「が、頑張ります」私は顔を強張らせて言う。

「これはこれは、初々しい二人ですな」隣に座ったダンディなおじさまが声を掛けてくる。

大手アパレルメーカーup worldの新井郁男社長だ。葛城父とは大学の同窓生で旧知の仲。

招待客リストは事前に渡されており、名前と略歴を頭に叩きこんである。暗記は得意だ。

「新井代表もお久しぶりです」

「そんな畏まらなくていいんだぞ?」新井代表は葛城とは懇意にしているようで唇の端を上げて悪戯っぽく笑う。

その隣に座るのはスリランカ大使館のソロモン・バンダラナイケ大使。

葛城商事がスリランカの風力発電所を受注する際に、橋渡し役として貢献していただいた。

「It's been a long time.I'm so glad you could come」

葛城は流暢な英語で歓迎する。

「Thank you for inviting me.」

「It's our pleasure to have you」

ソロモン大使と会話している様子を私はニコニコと微笑みながら見守る…が、何を話しているのか全く理解できない。

新井代表や、まさかのお爺ちゃんまで英語で和やかに談笑している。

語学習得の必然性を痛感してしまう。

その他にも主賓一人一人へ挨拶をして行き、終わる頃には笑顔を作り過ぎて頬の筋肉がつりそうになった。帯の締めつけも苦しい。