婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

パーティー当日

ホテルに併設されているサロンで髪をアップしてメイクを施してもらう。

「いかがでしょうか」

担当してくれた美容師さんに尋ねられ、鏡を食い入るように見つめてしまった。

そこには随分と大人びた自分が写っていた。

アイラインを太く長めに入れて、目尻を上げることにより、大人っぽい切れ長風の目になっている。

いつもより濃い紅のリップがなんとも艶めかしい。

髪は編み込んでシニョンに結い、赤い大きな花のかんざしがポイントになっている。

「小森様は整った顔立ちでらっしゃるので、しっかりしたメイクをしても映えますね」美容師さんは品よく二コリと微笑む。

次は、奥の座敷になっている小部屋で着物を着つけてもらう。

フォーマルドレスで大人の色気を演出するのは、私のポテンシャル上、困難であると踏み、沙織さんが和装を勧めてくれた。

大人をっぽく仕上げるために訪問着を選び、あえて振袖にはしなかった。

ママが娘時代に作ってもらった着物を私の体系に合わせて作り直したので着物の代金はほぼかかっていない。

少々、手直し代はかかったもののフォーマルドレスに比べれば安いものだ。

それに、お爺ちゃんが買ってくれたものなので、物はいいはず。

深い黒色地に艶やかな紅白の椿の花枝模様が描かれている。

帯は光沢のある白地に金糸と銀糸で刺繍が施されているデザインを合わせた。

着つけのおばちゃんは着崩れないように帯を思いっきり締めたので口から内臓が出そうになる。

「大丈夫よー最初は苦しいけど時期に慣れるわ」おばちゃんは陽気に笑って私の肩をポンポンと叩く。

全てが完了した頃には素晴らしいお着物姿とは裏腹に私はぐったりしていた。

私は苦しさに耐えながらも、葛城と待ち合わせしたロビーへとよぼよぼした足取りで向かう。

葛城は深緑の景色を背景に、窓際のソファー席で足を組んでゆったりと座っていた。

細身の黒いタキシードに身を包み、首元には渋めの赤いアスコットタイを巻いている。

髪を後ろにながして今日は大人っぽい雰囲気だ。その優雅な横顔に私は思わず息を飲む。