春の穏やかな日。



 暖かな日差しや空気はなく、もう太陽が傾いてきていて暗い空。


 そして、ジメジメとした空気。




 暗くなってきた世界の中で、唯一今春らしい、枯れかかっている赤や黄色のチューリップが揺れている。



 その風景に下校中の中学生の行列が現れた。




 ガードレールの中の道いっぱいに広がって、あいだあいだの空く列。




「バイバーイ、柚葉〜」




 列の中から声をかけられた一人の少女が出てきて、列の友達に向かって手をぶんぶん降る。



 少女の友達と思われる数人の女子中学生は手を振るとすぐに前を向いて歩みを進め始めた。



  
 
 住宅が並ぶ道に沿うと、すぐに目前に現れるクリーム色のマンション。


 さほど大きくはなく、五階建てくらいの高さだ。




 自動ドアをくぐり、くるんとしたポニーテールの少女はマンションのインターホンの鍵穴に取り出した鍵を差し込む。



 すると瞬時に音を立てて開くガラスの扉。




 少女はショッキングピンクのリュックを背負い直しながら、開かれた扉の奥へと進んでいった。