何十段と真下へ続く石段を、
男が悲鳴もあげずに落ちていくのを、
女は無言で見つめていた。
男はさっき、何かをポケットから出そうとしていた。
たぶん、刃物か何かだろう。
女も待ち合わせ場所によっては
用意しようとしていたが、
神社と聞いて突き落とす方法にしようと
決めていたのだった。
突然降ってわいた幸せの絶頂から、
一気に落とされたやり場のない怒りと、
一生周りに知られたくない、罪の記憶。
下まで落ちたのを確認すると、
女は急いでかけ降りて行った。
確認しなくてはならない。
これは口封じなのだから。
『う…痛ってぇ…。』
男は弱々しくつぶやき、
そばに立つ女の足元に手を伸ばした。
ビクッとして引っ込める瞬間、
足首を思い切り捕まれた女は、
体制をくずし転倒した。
『キャッ。』
男は辛そうに顔を向け、
手を離さないままハイヒールの靴底を見ると、
満足そうに笑みを浮かべた。
『やっぱりだ…
コンビニの前で落としてから…ここに…。』
『あると思ってた…。』
そう声をふりしぼると、
恐怖に動けずにいる女の前で
ガクリと目を閉じた。
男の反対の手に何か握られている。
女はそれを見てしばらく考えたあと、
がく然として自分の靴底を覗きこんだ…。