「えぇ、まあ多少は…。」
多少も何も、歴史好きなので大半わかっているのだが、ここは知らないふりの方がいい気がする。
「そうか、そうなると君を奉公に出すとしても、時代が違う君には難しかろう。」
奉公とは、大きなお店に働き口として出されるという事だが、私はこの時代の日常生活の方法がわからない。
洗濯の仕方、洗い物の仕方、料理の仕方、お金の数え方など、ありとあらゆることが、平成の世と違うのだ。
「あのぉ…大変厚かましいのですが、ここで働かせてもらうことはできないのでしょうか…?」
通らなさそうな提案のため、最後の方が声が小さくなってしまった。
でも、私を発見した人の近くにいる方が、帰る手がかりが見つかりやすいかもしれない。
それに、こんな非現実的なタイムスリップだ、きっとすぐ帰り方は見つかる筈だ。
それこそ、月の光が強い日、つまり次の満月の日に帰れたりするだろうし。
でもなあ、無理だろうな…。
だって、今までがトントン拍子に進みすぎた。
まずこの謎の現象を受け入れてもらえただけで充分だ。
どうしようか、このままダメだったら。
下を向いて、気づかれないように溜息を一つついたその時、
「いやぁ、本当かい?!」
大きな声が部屋に響いた。

