これは僕が知っているあの人の話。

僕は中学三年で陸上部の短距離走のエースだった。

明るくて天真爛漫で元気な男の子で有名だった。

高校だってスポーツ推薦が決まっていたくらいに足には自信があった。

何もかもが僕の見方で、自信に満ち溢れてた。

だけど。

僕は事故にあった。

そして脊髄に損傷を受けた。

自信に満ち溢れてた世界は色を失い、砂時計のように天から地へと崩れ落ちていった。

僕はもう走れない。

それどころか歩くこともできない。

絶望しかなかった。

身動きできない病室のベットから外を眺めていた。

そんなある日だった。

名前も知らないあの人は突然、僕の前に現れた。

短い髪の毛にたくさんの葉っぱをつけて、息を切らして入ってきた場所は窓。

━━あぁ、なんだ人か…

僕は当たり前のようにこの事実を受け流しかけて、途中で飲み込めないことに気づきまた振り替える。

僕は自分の目を疑った。

ここは四階で窓の外に通路はない。

ましてや非常階段なんてご都合主義の固まりもない。

つまり、彼女はどうやって来たんだ?

答は髪についた葉っぱと傷だらけの頬と手が語っていた。

僕の病室の窓からはいつも木が見えていた。

つまり、あの人はその気を登ってきたのだ。

なんて無計画な人だろう。

僕の病室は個室で、ついさっき来た看護師に空気の入れ換えをするために窓を開けさせていなければ、あの人は鍵のかかった窓に突進していたことになるのだ。