そのあとあっという間に雲は繋がり、空の欠片すら見えなくなった。

マオは俺の隣で膝を抱えて残念そうな顔をした。

「少しだけど晴れてよかったね!」

無理無理に俺は明るい声で彼女に声をかけた。

だけど彼女はなに食わぬ顔で俺を見上げた。

「そうだね。でもあんまり多くを望むとろくなことがないからね」

俺はその言葉に違和感を感じたが、気づかないふりをした。

「さて、と。そろそろ帰らないと。駅まで送るよ」

「や、こんな遅くに女の子一人残して帰るわけには…」

「ナカムー一人で帰れるの?」

結局俺はその言葉に反論できなくて、また細い道を並んで歩いている。

俺はずっと無言だった。

これで終わりだとわかっていたから。

何か言いたくても言えなかった。

何を言って良いかもわからなかったから。

「ナカムー?」

マオはか細い笑顔を俺に向け、手をさし伸ばしてくれた。

俺はその手を握った。

暖かかった。

その柔らかな暖かい手を握って俺は思ってしまった。

━━多くを望んだらろくなことがないのかな…。

彼女の顔は見えなかった。

永遠に見つめていたいその顔をなんだか覗いてはいけない気がした。

駅につくとマオはやっと振り向いてまんべんの笑みを見せてくれた。

「バイバイ。ナカムー」

彼女の声は優しかった。

俺の知っている彼女の声だった。

俺はこれが本当に最後だと悟った。

今、俺が声の限りに彼女に愛を伝えても、彼女が壊れるほどに抱き締めても、これが最後なのだ。

俺は一度出かけた言葉を飲み込んだ。

鉛のように固くて重いそれが体内に落ちていく。

俺はできる限りの笑顔で手をふって、駅の改札を通り抜ける。

彼女は俺が見えなくなるまでずっと笑ってた。