外灯もほとんど見当たらない暗い土手。

やっと振り向いた彼女の顔は笑っていた。

それは嬉しいや楽しいとはまた別な独特な微笑みだった。

例えば故郷に帰ってきて懐かしさを感じたような。

家の鍵をなくして、バックやポケットをひっくり返しやっと見つけた時のような。

久しぶりに母親の手料理を食べた時のような。

そんな今にも壊れてしまいそうで、柔らかい安堵の微笑みだった。

俺にはそれが理解できなくて、土手の柵に身をのりだし、辺りをみる。

遠くにちらほらと明かりが見えるだけのただの暗い土手だった。

俺が首をかしげているとマオが柵を乗り越え、わずかな足場に腰を下ろし、柵を背もたれがわりに寄りかかった。

マオのの顔色が少しだけ変わった。

さっきの表情に寂しさを足したような。

何とも言えない表情で空を見上げていた。

「ここはよく星が見えるんだよ」

彼女につられて空をみる。

生憎の曇り空だ。

「ご、ごめん。俺雨男だから…っ」

「なんでナカムーが謝んのよ。第一雨は降ってないでしょ?」

マオが大袈裟なくらいに豪快に笑った。

「それに私、晴れ女だし!」

ニッと歯を見せて笑うマオ。

どれも初めて見るマオで、俺は目が離せなかった。