「行こう、菜子。」



嵐はそう言ってあたしの手を引いて扉へ向かって歩きだした。



「随分と威勢のいい女だな??嵐。」

「……………。」

「嵐、お前に一つ良いこと教えてやるよ。」

「……………何。」



嵐は振り返らずに立ち止まり、あたしも一緒に立ち止まる。



「自分が決別した気でいても、影はいつだって後ろにまとわりついてる。………それが例え、今のお前にだってな。」

「…………………。」



嵐は無言でまた歩きだし、あたしもそれに続く。









「じゃぁな、嵐。……それから……またね。──菜子ちゃん…??」



あたしはその言葉に顔だけ振り返った。





そこには何か意味ありげな笑顔でひらひら手を振っているライの姿。



扉のところへ辿り着き、嵐が立ち止まって言う。





「俺も、ライに一つ良いこと教えてあげる。」

「ふぅん……何??」

「鉄パイプは人に投げるものじゃない。何かを作り上げるための『大切』な材料だよ。」



それだけ言って嵐は扉を閉めた。




















菜子と嵐が去って数分後。



───ガンッ───



数本の鉄パイプが壁に当たり、無残に転がる。



「これが『大切』な材料…??この、ただ転がってるだけの鉄パイプが……??訳分かんねー…。」



ライはまた一本鉄パイプを手に取りかすかな声でつぶやく。













「同じような境遇で、同じところで育って…


なのに───
















俺とお前の何が違ったってんだよ………。」







その言葉は倉庫の中の闇に溶けて消えた。