「ここは良いね……なんにも見なくてすむもん」



幹に手を当てて、そう呟いてみる。



「……っ」



案の定。
清春の息を呑む音が、風に乗って私の耳に入った。



「……お前はもう、学校に来る気はないのか?」



喉の奥から、絞り出したかのような清春の声。



私の名を呼んだ時の優しい清春の声とはまるで別人のように、震えていた。



清春の悲しげな声に、胸が締め付けられる。



私は無言のまま、小さく頷いた。



私の応答で、さらに切なそうに顔を歪める清春を視界に入れないように、私は目を閉じた。



「美琴、俺はずっとお前の傍にいる。何があっても絶対「ーー清春」…っ」



「ありがと……でも、その言葉だけは二度と言わないで」



ーー清春が大切な人になればなるほど、失った時、辛くなるだろうから。



桜の花弁が一枚、ひらひらと風に乗り、清春の肩に舞い落ちた。



私は静かに清春に近づくと、そっと花弁を摘み上げる。