ジャリ、とこちらに近づく足音が耳に入った。
「その子があんまり辛そうな顔をしてたから、ただ笑って欲しいっていうか、その顔を見たくなかったっていうか。
ただそれだけの思いで、話を聞いてあげて、少し話もして。
最後に、ありがとうって震える声で言ってくれた」
ドクン、ドクンと、心臓が鳴る。
もしかして、という期待で喉の奥が熱くなる。
振り向くと、あの印象的な瞳が、あたしを映していた。
「そのとき、ちょっとだけその子の顔を見ちゃって。
その横顔が、すごく悲しそうなのに、すごく嬉しそうで、儚そうなのに、強そうで、すごく綺麗で、目が離せなかった」
目の前に立っているこの人は、紛れもない、あたしに光をくれたあの人。
信じられなくて、嬉しくて、声が出ない。
その代わり、あたしの溢れた気持ちは涙となって頬を流れた。
彼は困ったように笑って、そっとあたしの頬を包み、涙を拭う。
優しい温もりに、心が震えた。


