雪みたいな、冬みたいな人。
名前とか、どこに住んでるとか、年齢とか、何一つ知らない。
でも、あの印象的な、不思議な色合いの澄んだ瞳だけは鮮明に覚えてる。
まだ、心が囚われてるんだ。
「そろそろ、帰らないとな……」
明日も仕事あるし。
あんまり遅くなって風邪とかひいたら洒落にならない。
今回も会えなかったな、なんて未練がましく思って、あたしはブランコから立ち上がった。
「もう帰っちゃうの?」
突然聞こえた声に、ビクリと肩が上がる。
「せっかくだし、もうちょっとここにいて、オレの話聞いてくれない?」
穏やかで、低い声。
あたしはこの声を、聞いたことがある。
「ちょうど十年前にさ、ある女の子とたまたまこの公園で会って。
ホント、ただの気まぐれで話を聞いてあげたんだ」


