よく考えてみると、私は全然星司くんのことを知らないどころか、話したのもさっきので2回目だ。
知っていることといえば、星司くんが優しい人だってこと、そしてコーヒーが好きだってこと。
たったそれだけだ。
「好きな人のために変わるって難しいけど、でも、それほどその人が好きなんだって実感させられるよ」
すごいなぁ、多田くんは。
葵ちゃんに振り向いてもらえるように変わろうとしてて。
私なんて、なにも……。
「好きじゃないと、自分を変えることなんてできないよ」
「そう、だね」
「これは拓磨には秘密なんだけどさ」
「ん?」
「拓磨は今、美憂ちゃんのために変わろうとしてるんだよ」
「……え!?」
私のために……拓磨くんが、変わる……?
「ま、放課後に拓磨に会えばわかるよ」
「…………」
キーンコーン―――
チャイムが鳴り、私と多田くんはそれぞれの席についた。
「拓磨くん……」
私のために変わろうとしてるって……どういう意味だろう。
拓磨くんは今、どこでなにをしているのだろう。
午後の授業はずっと拓磨くんの表情が頭を離れなかった。


