「それから離婚してから僕は1人で転勤して、しばらくして帰ってきたら、もうあの家には誰もいなくて……。僕が転勤している間に、借金取りが何度も取り立てに来て、心配そうに玄関に出てきた拓磨を殴って……。拓磨の顔のアザが近所でウワサになって、お母さんは逮捕されてしまったんだ」



「そんな……」



そんなことがあったなんて……そんな真実があったなんて……。
俺はなにも知らずにただ……。



「お母さんはもうとっくに無実が判明して、釈放されている」



「じゃあなんで俺のところに……」



「お前に合わせる顔がないって、言ってた」



そういうことだったんだ。
母親は俺を……捨ててなんかいなかったんだ。



その事実に俺の目から自然に涙が出てきた。



「拓磨にわかってほしいのは、お母さんは拓磨のことを捨てたワケじゃない。拓磨のことを誰よりも愛していたってことだ」



“愛情”
俺が一番欲しかったもの……。
俺は……ちゃんと愛されていたんだ。
裏切られてなんか……いなかったんだ。



時間が経って、ようやくわかった事実。
母親のことをずっと忘れられなかったのは、きっと、母親が俺に優しかったからなんだ。