「……なに」



私の視線に気が付いた拓磨くんがリンゴを食べる手を止めた。



「いや、子どもの頃の拓磨くんはきっと可愛かったんだろうなぁって思って」



「なんで」



「リンゴ食べてるときの拓磨くんが子どもみたいに嬉しそうだったから」



「……そっか。どうだったんだろうね」



私から目を逸らして、静かにシャキッと音を立ててリンゴを食べた。



そのときに私は少し感づいた。
言ってはいけないことだったんじゃないかって。



拓磨くんの小さい頃、なにかあったんじゃないかって。



「わ、私もリンゴ食べよーっと!!」



ごまかすようにそう言って、私はリンゴを食べた。



「やっぱリンゴは美味しいなぁ」



拓磨くんの過去になにがあったんだろう。
私が知っているのは今の拓磨くんだけで、拓磨くんのほんの一部でしかないんだ。
勝手に拓磨くんのことを知った気でいた。



……なんて、考えたって仕方ないか。
大事なのは今!そうだよ、人の過去は掘り返すものじゃないよね!