すると由乃は、俺の腕から離れて俺の顔を見上げた。
俺は安心させたくて優しく笑いかけた。
それから由乃の頭を撫でて、俺は落ち着いた口調で話し始めた。
「由乃、お前は1人で抱え込みすぎだよ。
宇乃くんはお兄ちゃんとして、
俺は幼なじみとして心配してるんだよ。
お前はもっと周りの人に頼れ。甘えろ。
別に人前で泣いたっていいんだから。」
すると、とっくに泣きやんでいた由乃がまた涙を流した。
今度は声を殺さずにわんわん泣いていた。
「それは由乃が出来ないことだって分かってるでしょ?!
…でも…本当はお母さんが死んじゃったこと…すごく悲しかった…でも泣けないよ…
お父さんだってお兄ちゃんだって辛そうな顔してたから…」
「泣きたきゃ泣けばいいだろ?
なんで子供の由乃が我慢しなきゃいけないんだよ!」
「由乃が我慢してたら…みんなだって心配しないし…悲しくならないでしょ?…」
「ばか!そんなわけないだろ?
せめて俺の前では弱音はけよ!」
「健流…
……由乃を置いて行かないで…由乃から離れていかないで…これ以上…大切な人失いたくないよ…」
「俺はずっとそばにいるから。離れて行くわけないだろ?」
「…健流…ありがとう…」
やっと由乃の弱音を聞けた。
俺の隣で泣く由乃は、ちゃんと小学3年生の女の子だった。
(由乃、俺がお前を守るから…
ちゃんとそばにいるから…)
小学3年生の夏。
俺はそう心に決めたのだった。

