普通、兄弟の1番上の人がしっかり者で人に頼ることが苦手そうだけど、由乃は違った。
お兄ちゃんがいるにも関わらず、「人に頼る、甘える」ということがとても苦手だ。
由乃が俺の前で弱音を吐いたところ、泣いたところをほとんど見たことがなかった。
きっと宇乃くんも、そして綾人や翼沙も見たことないはずだ。
ただ、たった一度だけ。
由乃が隠れて泣いているところを偶然見かけたことがある。
由乃の家の近くの公園の木かげに1人、しゃがみ込んで。
きっと家を飛び出して来たんだろう。
この日は由乃のお母さんのお通夜の日だった。
当時、お互い小学3年生。
まだ小学3年生の女の子が、さらに親が死んでしまった時に、声を殺しながら隠れて泣くなんて俺には信じがたいことだった。
俺は我慢出来なくなって、由乃の傍に駆け寄って抱きしめた。
「こんな夜遅くに1人でいたら危ないだろ。
しかも隠れて泣かなくたって…」
「…泣いてないよ、何言ってるの。」
(お前はこんな時まで意地を張るのかよ。)
「俺らは幼なじみだろ。
何かあったら俺の前で泣けよ。」
「べ、別に健流の前で泣く必要なんて…」
「あるんだよ!
お前が辛い時にずっと傍にいてやれる。
1人で泣くほど辛いことないんだぞ!」
抱きしめる力を強めて、1番強い口調で由乃にそう言った。

