中2で帰宅部の私の、下校中。
突然降りだしたのは、大量の雨粒。
明日から冬休みだと浮かれていた私は傘なんか持ってなかった。
必死に走って駆け込んだのは、近所の駄菓子屋さんの軒下。
ちなみに、今日は駄菓子屋さんの定休日だ。運が悪い…。
「うわ〜、ビッショビショだ…。」
冬の制服は、もともと重いのに雨のせいで濡れてもっと重くなっている。
しかも、雨は全然やみそうにない。
あ〜あ、とため息をついたその時。
『……これ。…使って…。』
突然渡された傘。
驚いて視線をあげると、彼は定休日のはずの駄菓子屋さんの奥へ行ってしまっていた。
「駄菓子屋さんの…子?」
渡された傘は白い傘だった。しかも、白いリボン付きの。
「わはははっ!白いリボン傘なんて、メルヘンすぎっ!」
少女漫画みたいな展開だったのに、渡されたのが白いリボン付きの白い傘だったので、私は気が抜けてしまった。
しかも、あの子のやつかな?…ぷぷぷ。
私は、聞こえるはずもないのに、駄菓子屋さんの奥に行ってしまった男の子に向かって
「これ、ありがとね!使わせてもらいまーす!」
満面の笑顔で言った。

私は、借りた白い傘のおかげで家まで無事に帰った。
すぐに返そうと思ったけど、冬休みは、祖母の家に帰るため返す暇が無かった。


冬休みは終わり、私はいつものように家を出る。白い傘を片手に。
あの駄菓子屋さんは、私の通学路にある。
「返すの、かなり遅れたけど大丈夫かな?」



「…あれ?駄菓子屋さんは?」
あったはずの駄菓子屋さんは無かった。
なんで…?
「あぁ。駄菓子屋さん?この前、閉店してしまったよ。急でびっくりしたねぇ。」
散歩していた近所のおばさんに聞くと、そう答えられた。
どこ…どこに行ったの?この白い傘はどうしたらいいの?
あの男の子は、どこかへ行ってしまった。白い傘を残して……。

あれから、私は白い傘をずっと大事に保管している。
あの男の子の名前も、顔も年齢も全然わからないのに。
でも、頭から離れない。
私は待ってる。いつか返せる日まで…。