「暑ィ…」

流れ落ちる汗は、拭っても拭っても俺の顎を伝い、小さく音を立てて体育館の床に落ちた。
7月の体育館は、梅雨の湿気が抜け切らずに蒸し暑い。
ボールを追って走る俺には、それが何倍もの負荷となって覆いかぶさってくる。

「…暑い」

暑さに耐え切れずにがっくりと項垂れ、俺はもう一度呟く。
呟いたところで何もないのだけれど、文句を言わずになんてやってられない。
なにしろ、夏なのだ。


俺は、桜間中学2年、篠崎春弥(しのざきはるや)。名前の通り、春生まれ。
男子バスケットボール部所属、一応4番背負ってる。


「ちょ、お前ダルダルじゃん。キャプテンがそんなのでどーすんだよ?」

奴曰く“ダルダル”な俺の背中をバンバン元気よく叩くコイツは、小学校からの付き合いの―――拓真(たくま)。

小学校で一番脚が速くて、びっくりするくらい底抜けに明るいヤツだ。
俺は、悩んでるトコとか、泣いてるトコとか、怒ってるトコとか、そういう表情をしてるコイツを見たことが無い。

「暑いモンは暑い!諦めて集中しろよー」