目の前の彼は、自分のことを知っている。

だが、なぜ、どこか苦しげな表情でそんなことを言うのか。

亜理亜には分からなかった。

その時だった、突然祠の奥にあった虎が光りだした。

亜理亜はその眩しさに思わず目を細めると、信幸を見た。

信幸は、どこか悲しげな顔で亜理亜を見つめていた。

なぜそのような表情を浮かべているのか、訊ねたかったが、それは可能にならなかった。

亜理亜の姿は光の中に吸い込まれていく。

それを、信幸は何も言わずに眺めていた。

光が亜理亜を包み込み、消えた祠の中で、信幸は一人笑い出した。

「あー。俺のことを信幸って奴と間違えてたのは、間違えじゃなかったけんね。亜理亜、お前さんは俺を…救ってくれるか?」