雪桜満開

開けっ放しだった扉をくぐり抜けて外に出た。


雪が強くなっていた。


粉雪程度だったのが、視界が悪くなる程度になっている。


桜を見上げる…きっと桜は咲いている。


そう思って俺は桜を見上げ…


「…あぁ…」


桜は、咲いてはいなかった。


落胆と同時に声が漏れた。


ふと手元に握ったままの黄色い水晶を見る。


「期待させるだけださせておいて…コイツは結局なんだったんだ…はぁ」


手に持った水晶を放り投げると同時に、今度はため息が漏れた。


「んん…」


水晶の転がった先。


俺が作った雪だるまの前。


何か、居た。


「…人、なのか?」


ゆっくりと歩み寄ってみる。


雪に寝そべっているそれは、やはり人だった。


「いや…待て待て待て!」


冷静に考えたら雪の中に人が倒れているのは大事件じゃないか!


何があったかは知らないが、放っておける訳はない。


雪に咲く桜を探していることが役に立ったな…


「おい、大丈夫か?一体何が____」


その人の肩を叩こうと更に近寄って屈みかけた時、気づいた。


ー人間じゃないー


伸ばしかけた手が無意識に止まる。


俺の視線の先、遠目から見れば確かに人だった。


倒れていたし、雪で視界が悪かったせいで見落としてたのかもしれないが…


コイツは頭に耳が生えている。


いわゆる“獣耳”というやつだろうか。


確かに生えている。ここまで近づいて見たんだ、見間違いではない。


ああ、更に見てはいけないものなんじゃないかこれは…


尻尾まで生えてる。


「犬…いや、狐?」


夜も更けてきて、月明かりが照らす神社。


俺の前にいるのは得体の知れない生物。


なんなんだ、コイツは…


コスプレ?遅れたハロウィンか何かか?


そんな考察をしてる時だ。


組んでいた俺の腕にヒラリと何かが落ちてきた。


「…桜?」


見上げると、何枚もの桜の花びらが宙を舞っていた。


ゆっくりと桜の木を仰ぎ見る。


「ずいぶんと待たされた」


雪が降る夜。


「何年通ったと思ってるんだ?」


桜は満開に。


「…遂に見れた」





咲いていた。