もう何度見た風景か。
若干積もった雪に、ボロボロに朽ちたお社がポツンと一つ。
他に目立つものといえば小さな池のみ…人が居るところは未だに見たことがない。
そして俺の目当ての桜の木は…
「いつ見ても変わらんな、お前は」
目の前の木に手を当てながら声をかける。
蕾すら見当たらない桜の木。
これが桜の木だと知らなけらば桜とすら思わないだろう。
咲くためには何かの条件があるんじゃないかと思っていろいろ試したことがある。
肥料をやってみたり、照らしてみたり、木の皮を剥いでみたこともしたか…
勿論なにもあったことはない。
いろいろ試してみる内に、とうとう思いつくことが無くなった。
だがこの神社で何もせずに過ごすのは余りにも暇。
何か暇をつぶせることがないかと考えたことがある。
そこで思いついたのが、雪だるまだ。
俺は少し前から、この神社に来ては雪だるまを作り、作り終わって少ししたら帰る…ということを繰り返していた。
正直、桜を見に来ているのか雪だるまを作りに来ているのか分からなくなっている。
「さあ桜よ、今日もお前の体を雪だるまの一部にしてやる。嫌なら俺の前で咲いてみるんだな」
ボキッ
木の枝を無造作に一本折る。
これも雪だるまを作ってからは毎度のことだ。
全部で何本ほど折っただろう…多分10本は超えている。
だがこれも咲かない桜が悪い。
そして今日も俺は雪だるま作りに精を出す……
「うむ、我ながらなかなかのものじゃないか」
あれから2時間ほど経って、ようやく納得がいく雪だるまを作ることができた。
雪だるま作りというのは以外と体力を使う…今は上着を脱いでいるにもかかわらず、暑いぐらいだ。
そんな俺の力作は、全長おおよそ2メートル。
目、鼻、ボタンは全て石。
腕にはあの桜の枝を使っている。
俺の雪だるまのポイントは、なんといってもその形だ。
装飾品などなんでもいい、この綺麗な球体を作るのにどれだけの労力がいることか…
それだけじゃない。
顔の雪玉と、体の雪玉の比率は3:2…これも譲ることはできない拘りだ。
その条件をクリアした雪玉ができたとしても、まだ油断してはいけない。
これを合体させる時が一番重要なのだ。
完成された雪玉を、できる限り繊細に…
「……なんだ?」
気のせいだろうか…何かの音がした気がする。
俺は雪だるまの前から辺りを見回すが、音が立ちそうなものは何もない。
やはり、気のせいか…?
…ガサッ…
「…お社の中…か?」
何かが落ちたような、何かが動いたような…そんな音がお社の中から聞こえた気がする。
いや、今度は間違いなく聞こえた。
「なんだ、誰か居るのか?」
そういえばお社の中には入ったことがない。
ボロボロでいて小さいお社だ、入ろうとすら思ったことはない。
だからこそ言いようのない不気味さを感じる。
今までこんなことは無かった。音がするだとか、何かの気配がするだとか…
お社に向かって歩いていた足が思わず止まる。
俺は非現実的なことを信じている。
ということは、幽霊や妖怪などといった存在を信じていることにもなる。
もしも、このお社が実は鬼や悪魔を封印しているような場所なのだとしたら…
「…あり得ない。」
馬鹿か、その“あり得ない”ことがあり得るってことを証明するためにここに居るんだ、俺は。
そもそも物音一つで何をそんなに怖がっているんだ?
よくあることだ。家に居るときだって物音ぐらい聞こえてくる。それでここまで怖がることがあるか?なんで俺はこんなに怖がっているんだ。何に恐怖を抱いているんだ。そもそもこの恐怖の対象が非現実の可能性だってあるじゃないか。なんのために今まで神社に通ったんだ。行け、歩け。歩いてお社の扉を開けろ。
「誰か居るなら、開けるぞ」
目の前には古びた扉。
触っただけで崩れてしまいそうだ。
そんな頼りない扉を開けることを躊躇しているのか?俺は?
「馬鹿馬鹿しい…おい、誰だ」
勢いよく扉を、開いた。
この季節、夕方には陽が落ちる。
月明かり以外に何もない状況ではお社の中はよく見えなかった。
「…誰も、居ないのか?」
目を凝らしてみるも、人影らしきものは見当たらない。
ゆっくりと、お社の中へと足を踏み入れた。
初めの一歩は、重かった。
「これは…犬、いや、狐?」
外から見てもわかる通りお社は小さい。
もちろん中もそれに伴った広さであり、そんな狭い空間で目立つものは一つしかなかった。
動物の石像。
俺がみるに、これは狐だ。
お社の中にあったってことは、ここは狐を祀っていた神社なのか?
石像の周りを一周してみる。
「ん?」
歩いている足に何か当たった。
「水晶…か?」
拾い上げて見てみると、黄色に鈍く光る水晶玉だった。
大きさはそれなりなのだが、重さを殆ど感じない。
さっきの音は、この水晶が落ちた音だったのか?
だがこれは初めての出来事だ。
もしかしたらこれが桜の咲くきっかけに…
「桜…桜!」
俺はその水晶を持ったまま、久々に感じる期待感を胸にお社の外へと飛び出した。
若干積もった雪に、ボロボロに朽ちたお社がポツンと一つ。
他に目立つものといえば小さな池のみ…人が居るところは未だに見たことがない。
そして俺の目当ての桜の木は…
「いつ見ても変わらんな、お前は」
目の前の木に手を当てながら声をかける。
蕾すら見当たらない桜の木。
これが桜の木だと知らなけらば桜とすら思わないだろう。
咲くためには何かの条件があるんじゃないかと思っていろいろ試したことがある。
肥料をやってみたり、照らしてみたり、木の皮を剥いでみたこともしたか…
勿論なにもあったことはない。
いろいろ試してみる内に、とうとう思いつくことが無くなった。
だがこの神社で何もせずに過ごすのは余りにも暇。
何か暇をつぶせることがないかと考えたことがある。
そこで思いついたのが、雪だるまだ。
俺は少し前から、この神社に来ては雪だるまを作り、作り終わって少ししたら帰る…ということを繰り返していた。
正直、桜を見に来ているのか雪だるまを作りに来ているのか分からなくなっている。
「さあ桜よ、今日もお前の体を雪だるまの一部にしてやる。嫌なら俺の前で咲いてみるんだな」
ボキッ
木の枝を無造作に一本折る。
これも雪だるまを作ってからは毎度のことだ。
全部で何本ほど折っただろう…多分10本は超えている。
だがこれも咲かない桜が悪い。
そして今日も俺は雪だるま作りに精を出す……
「うむ、我ながらなかなかのものじゃないか」
あれから2時間ほど経って、ようやく納得がいく雪だるまを作ることができた。
雪だるま作りというのは以外と体力を使う…今は上着を脱いでいるにもかかわらず、暑いぐらいだ。
そんな俺の力作は、全長おおよそ2メートル。
目、鼻、ボタンは全て石。
腕にはあの桜の枝を使っている。
俺の雪だるまのポイントは、なんといってもその形だ。
装飾品などなんでもいい、この綺麗な球体を作るのにどれだけの労力がいることか…
それだけじゃない。
顔の雪玉と、体の雪玉の比率は3:2…これも譲ることはできない拘りだ。
その条件をクリアした雪玉ができたとしても、まだ油断してはいけない。
これを合体させる時が一番重要なのだ。
完成された雪玉を、できる限り繊細に…
「……なんだ?」
気のせいだろうか…何かの音がした気がする。
俺は雪だるまの前から辺りを見回すが、音が立ちそうなものは何もない。
やはり、気のせいか…?
…ガサッ…
「…お社の中…か?」
何かが落ちたような、何かが動いたような…そんな音がお社の中から聞こえた気がする。
いや、今度は間違いなく聞こえた。
「なんだ、誰か居るのか?」
そういえばお社の中には入ったことがない。
ボロボロでいて小さいお社だ、入ろうとすら思ったことはない。
だからこそ言いようのない不気味さを感じる。
今までこんなことは無かった。音がするだとか、何かの気配がするだとか…
お社に向かって歩いていた足が思わず止まる。
俺は非現実的なことを信じている。
ということは、幽霊や妖怪などといった存在を信じていることにもなる。
もしも、このお社が実は鬼や悪魔を封印しているような場所なのだとしたら…
「…あり得ない。」
馬鹿か、その“あり得ない”ことがあり得るってことを証明するためにここに居るんだ、俺は。
そもそも物音一つで何をそんなに怖がっているんだ?
よくあることだ。家に居るときだって物音ぐらい聞こえてくる。それでここまで怖がることがあるか?なんで俺はこんなに怖がっているんだ。何に恐怖を抱いているんだ。そもそもこの恐怖の対象が非現実の可能性だってあるじゃないか。なんのために今まで神社に通ったんだ。行け、歩け。歩いてお社の扉を開けろ。
「誰か居るなら、開けるぞ」
目の前には古びた扉。
触っただけで崩れてしまいそうだ。
そんな頼りない扉を開けることを躊躇しているのか?俺は?
「馬鹿馬鹿しい…おい、誰だ」
勢いよく扉を、開いた。
この季節、夕方には陽が落ちる。
月明かり以外に何もない状況ではお社の中はよく見えなかった。
「…誰も、居ないのか?」
目を凝らしてみるも、人影らしきものは見当たらない。
ゆっくりと、お社の中へと足を踏み入れた。
初めの一歩は、重かった。
「これは…犬、いや、狐?」
外から見てもわかる通りお社は小さい。
もちろん中もそれに伴った広さであり、そんな狭い空間で目立つものは一つしかなかった。
動物の石像。
俺がみるに、これは狐だ。
お社の中にあったってことは、ここは狐を祀っていた神社なのか?
石像の周りを一周してみる。
「ん?」
歩いている足に何か当たった。
「水晶…か?」
拾い上げて見てみると、黄色に鈍く光る水晶玉だった。
大きさはそれなりなのだが、重さを殆ど感じない。
さっきの音は、この水晶が落ちた音だったのか?
だがこれは初めての出来事だ。
もしかしたらこれが桜の咲くきっかけに…
「桜…桜!」
俺はその水晶を持ったまま、久々に感じる期待感を胸にお社の外へと飛び出した。
