雪桜満開

「とにかく、ここで遊んでる時間はないぞ学力が良いとは言えない俺たちがあの学校に入学するためには推薦しかないんだ」


「おいおい、俺たちはその学校に遊びに行くんだぞ?あ、お前からしたら視察だったか」


「そうそう、どうせこんなことしてたら推薦なんて無理に決まってるでしょ?」


「わかってる、お前らはいつもそうだ。気にするな、俺はお前らの気持ち全て分かっているぞ」


いつも行く前は遊びだのなんだのという軽口を叩いてくる。


しかしこいつらだって俺と学力はそう大差ないんだ。


本当に推薦に逆効果だと思っているなら付いてくるとは思えない。


「あの…こんなことって、どんなことなんですか?」


「視察だ」












「到着だ」


俺たち4人は志望校へとたどり着いた。


聞けば白浜は来年この高校を受験するつもりだそうだ。


それならば今日付いてきたいと言ったのも納得だ。


「よし、ではいつもの通りで行くぞ」


「「へーい」」


「あの、視察って?いつものって??」


「いいか、白浜は俺たちの行動を見て今後に生かすことに専念するんだ。いいか、1人でもできるようになるんだ。今日中にだ」


「は、はい…?」


まずは挨拶。これは定石だ。


門を潜る時の挨拶…それは、


「たのもーーーー!」


「…へ?」


挨拶は大きく、中の人に聞こえるように。


ちなみに今の挨拶は間違いなく聞こえている。


証拠に校門の近くに居た教員と思われる方が慌てて校舎へと走っていった。


これは俺たちの入校許可証を取りに行ったと見て間違いないだろう。


だが!ここでアピールのチャンスだ。


教員の方に持って来てもらわずとも、自分から出向く。


「よし、行くぞ」


「え!?今の必要なんですか?ただ叫んで先生が走って行っただけなんですけど!?」


「いつものことよ」


「開幕から教員に見つかったのはこれが初めてだな」










「入校許可証を受け取りに来ました」


「いえ、それはできません」


「そうですか」


ここには既にさっきの教員の方が来てくれているはず…それで入校許可証を渡せないということは…


つまり俺たちは既に入校許可証がいらないほどに受け入れられているということだな!


「よし、いくぞ」


「え!?入校許可証、え?」


「いつものことよ」


「こんなに即答されたのは初めてだけどな」












「学校の為になることと言えば清掃だ」


「あ、ようやく私でも分かることが…」


「とりあえず前から気になっていた校庭の真ん中に植えられているこの木。今日はこれをどうにかする」


「まて翼、さすがにそれは…」


「なぜだ」


「わざわざ校庭のど真ん中にあるんだ。意図的に植えてるって思わねーのか?」


「なるほど」


確かになぜこんな所に木が植えてあるのか…考えたことは無かったな。


てっきり駆除できないから放って置いてるだけかと思っていたが…


しかしなぜだ、分からん。


「よし、視点を変えてみる。屋上に行くからお前らはここにいろ」


屋上から見てみればこの木の訳が分かるかもしれない。


そうと決まれば即行動だ。


「…あの、桜庭先輩行っちゃいましたけど」


「いつものことよ」


「いや、いつもならここらで教員の奴に放り出されるはずなんだが…」












ガヤガヤガヤガヤ…


「参ったな」


何故かは知らないが屋上に行くための階段が教員によって封鎖されている。


さらには階段の前に未来の先輩たちが野次馬の如く群がっていて、完全に屋上に登れない状況だ。


しかしここは通してもらわなければならない。


失礼ながら先輩たちを掻き分け教員の方の前へと歩みでる。


「失礼、屋上へ行きたいのですが」


「何度も言ってるだろ!生徒は今屋上へ進入禁止だ!」


「なら僕は通ってもいいですね」


「お、おい!行くなと言ってるだろ…って、お前は!?何度かうちを荒し回って帰っていった…」


「そうです、俺は未来の生徒であって今は生徒ではありません。証拠に至福です」


「でもお前、学校が…」


「今は試験休みです」












結局あの教員の方は俺を止めることはしなかった。


しかし、俺の顔もとうとう一般教員にまで覚えられるほどになったか…


今までの甲斐があったというものだ。


とにかく登れたからにはあの木の意味を知るために上から眺めて…


「バカなことはやめなさい!」


「ん?」


「うるさい、僕は…僕はもう嫌なんだ!受験勉強なんてぇ!」


…俺の目が確かなのであれば、これは飛び降り自殺をしようとする男子生徒と、それを止める教師という構図じゃないか?


いや、間違いない。教員の方の近寄りたくても近寄れない雰囲気を見れば一目瞭然。


しかし俺の目的は校庭を見ること。


「いいからこっちに来なさい!」


「先生は頭いいから先生になったんだろ!?俺は頭わるいから勉強しても勉強してもまったく頭良くならないんだよ!!」


「訳のわからないことを言わずに、おい!」


「そらみろ!やっぱ俺のことなんか分かっちゃねー!」


「ばか、刺激するんじゃない!」


「待ってください先輩!」


校庭を見ることだがモチロンそんなの後回しだ。


「なんだお前は?おい、こっちにくるんじゃねー!」


「あそこに木が生えてますよね?」


「あ、ああ?あの桜がなんだってんだ」


「ああ、あれは桜なんですか。奇遇ですね、僕の名前は桜庭なんですよ」


「きいてねーよ、なんだおまえ!」


「俺はあの木がなんであんなところに植えられているのか調べてたんです」


「いやだからなんなんだっておまえ!」


「そして分かりました。こういう時のためです」


「へ?」


バッ


「ああああ!あいつうちの生徒と一緒に飛び降りたぁ!?」






「うわあああああああ!死ぬうう!」


今日の厚木はやはり無駄じゃなかった。


この上着をパラシュート代わりにしてあの桜の木をクッション代わりにして着地…なるほど、あの桜はこの時のためだったか。


「心配しないでください先輩。あの桜の木の意味を考えれば俺たちが生還するのは間違いないです」


「…」


「先輩…気を失っているのか」


しかしおかしいな…このままではあの桜の木に届かない気が…


それになぜか上着がパラシュートの代わりをなしていない。


まて、これは俺たち助からない___