僕は目を疑った。
他の人々が猫の存在を無視する様に猫は自然とその場所にいた。

黒猫は不幸の象徴とされているが、僕は黒猫が嫌いではなかった。

そして、この電車に乗っている黒猫も僕のグレー一色の世界に黒と言う新たな色を加えてくれた。


そして、僕の世界は黒に染まった。


絵の具を使うと解るのだが、美しい色も汚らしい色も黒を加えると全て黒になる。

それと同じで僕は黒猫から目が離せなくなった。

そしてもう一つ車両に異変があった。


それは男性しか乗っていないのだ。


意識しないと気づかない事ではあるが、黒一色になった僕の世界には男性しかいない事を脳に刻むのに苦労はなかった。

僕はその電車に乗り込んだ。

乗り込むと同時に猫は僕の顔を一度見て駅を降りた。


そして電車は扉を閉めた。



その後は特に変わる事はなく、学芸大学の駅を降りて10分程歩き職場に向かう。


向かう途中の行き交う女性を見ては、美人だなあや、不細工だなあと思う。
あえて自分一人の時間ではストレートに表現する必要がある。

職場につけば挨拶をして仕事を開始する。

ご利用者宅に向かい、機械の調整をして営業も行う。現場から事務者に戻って事務処理を行い翌日の準備をして帰宅する。

政孝は無駄の無い動きで一秒でも早く仕事を終わらせて帰宅したかった。


帰宅してウィスキーを口にしたかったのだ。

そして帰宅しようと駅に向かった。

駅に向かう途中で口論をするカップルが居た。

話は頭に入ってこないが見るからに我を忘れて怒り狂っている。

そして女性が男をナイフで刺した。
刺された腹部からは血が勢い止まる事なく流れた。

男は声を失い、腹部を抑えながら地面に膝を着いた。


その瞬間、女性が男性の顔面に回し蹴りをくらわせた。


僕は目を奪われ、僕の世界に色が戻った。

男は蹴られた方向に倒れ、起き上がる事はなかった。


同じ景色を見ていた女性が悲鳴をあげた。
他の誰がが救急車を呼んだ。


ナイフを刺した女性はその場から逃げた。
ただ、誰も彼女を追う事は出来なかった。


黒猫が笑った。

そして僕はウィスキーを飲んだ。