僕は彼女と別れると、いつもの倦怠感が押し寄せてきた。

仕事に行かなくてはならないが本当は行きたくない。
それでも行かなくては生活が出来ないので選択肢は1択しかないのだが。


職場は東横線沿いの学芸大学駅にある。

学芸大学駅は少し小洒落ている雰囲気があるが、蓋を開けると世田谷区にある田舎駅だ。

商店街にはお洒落なBARや居酒屋とそうでない居酒屋があり、昼間はコンビニやマクドナルドやケンタッキーが自己主張している。

僕の職場はそんな駅にあるのだが、駅から徒歩10分の位置にある。
そこは最早小洒落ているなんて事はなく、ただ道路が入り混じっている一角にある。

毎日決まった時間に職場に行き、バラバラな時間に帰宅する。

職業は介護職だ。

僕が介護職を行っている理由はただ面接に受かったからで介護に興味がある訳でも社会貢献をしたい訳でも高齢社会に向けた経験でもない。

ただ面接に受かったのだ。


通勤の為、大井町線から東横線に乗り換える。駅は自由が丘だ。

東横線の階段を昇るとあたりから色が消える。

いつもの事だ。

職場が近づくにつれ色が失われていく。

階段の色、グレー。
電車の色、グレー。
行き交うサラリーマンのスーツの色、グレー。

グレー一色だ。

そして各停の文字を付けた電車が右側車両で僕を待っている。

同じ毎日の入口だ。

でもそのにはいつもと違う事が一つだけあった。
いつもの車両に黒猫が乗っていたのだ。