政孝からコーヒーを受け取った彼女は鼻を近づけ満足そうに香りを楽しみ、そしてゆっくりと口に運んだ。

コーヒーから出る湯気が優しく部屋に溶け込む。

彼女は政孝を見つめ「美味しい。こんなに美味しいコーヒーは始めてよ。」と言った。

政孝は彼女の美しい容姿にまだ慣れない様子で
「ありがとう。」と伝える。

「どうやったらこんなに美味しいコーヒーになるの?」

「それは簡単な事なんだけど、まず豆をひく時は手動でやるって事だよ。
今は自動でムラなく豆をひく事が出来るけど、僕は手で豆をひく。そうする事で同じコーヒーを作る事は出来ないけど、一回一回新しい味に出会う事が出来る。それと、お湯を入れる前にカップを温めておく。これは一般的だけどやるのとやらないのとでは大きく変わってくる。
それと豆を20秒程蒸らす。
蒸らす事でコーヒーの旨味を凝縮する事が出来る。
そしてゆっくりと「の」の字を描いてお湯を入れる。
ゆっくりと美味しくなる事をイメージする。」

女性は困った顔で「面倒くさいわよ」と言って笑った。

僕も笑った。


この女性とは連絡先も交換をしなければ名前すら知らないで別れた。

ただ、別れ際にもう一度SEXをした。

このまま別れるのは寂しいが、この先長く付き合うつもりはない。

結果が最後のSEXだった。


こうしてウィスキーは僕の体内から少しずつ出て行った気がした。