「緋奈乃、蒼くんを紹介してくれた日に、何か言いかけなかった?」
「なにを?」
「ほら、水原くんが中3の時に…みたいな」
緋奈乃は「あ〜」と思い出したように頷く。
そして、いつもよりも小さい声で話した。
「同じ塾の子から聞いたってやつだよね?」
「うん。緋奈乃はそう言ってた」
「まあ、その子から聞いたんだけど…」
緋奈乃はそこで小さく息を吸った。
そして、私に確かめるかのように、「聞いて後悔とか、しないでね?」と、何度も言ってきた。
私も黙って頷いて、緋奈乃の言葉を待つ。
「流矢くん、中3の時に、凄く好きな女の子がいたんだって」
「えっ?」
「しかも、まさかのあの流矢くんの片想い。その子には他に好きな人がいたとか」
「三角関係ってやつ」と、緋奈乃は苦笑い。
私は、苦笑いすることもできないまま、顔を硬直させた。
水原くんに、好きな人?
しかも、水原くんの片想いって…
「でも、水原くんが今も好きとは限らなくない?」
私は自分を安心させるように緋奈乃に質問したけど、緋奈乃の表情は変わらない。
「それが、塾の子が言ってたんだけど…多分今も好きなんじゃないかな、って」
「……」
「塾の子曰く、流矢くん、相当その子に惚れ込んでたんだって。中学の時の流矢くん、今みたいに凄くモテてたから、流矢くんファンから見ても、流矢くんのその子に対する態度が全然違かったらしいよ。
凄く優しい表情で、その子を見るんだって。その子と話してる時も、楽しそうに笑うんだって」
楽しそうに、笑う…?
