《ただいまより、風凪高校対夕ヶ丘高校の試合を開始いたします》



それぞれノック練習も終わり、試合が始まった。



先攻は風凪、後攻は夕ヶ丘。



野球の場合だと、後攻の方が有利だってお兄ちゃんが言ってた。



後攻は夕ヶ丘。強い分後攻って…



風凪の一番バッターは洸耶。洸耶、2年生なのにスタメン入りしてるんだ。



「洸耶頑張って!」



バッターボックスに立つ洸耶にそう叫ぶと、洸耶は私に気付いて、ニカッと笑顔を見せる。



「プレイボール!」



試合が始まった。



夕ヶ丘のピッチャーは、まだエースを出さない。余裕ってことなのかな。



風凪も甘く見られてるんだなと思うと、少しだけ腹立たしい。



「まだエース出さないんだな。風凪も甘く見られてるよ」



水原くんも、今私が思ったことを言うもんだから、驚いてしまう。



「でも、今年の風凪もそこそこ強いと思うんだけど」



そうなのかなぁ。私はあまり分からないんだけど。



野球経験者の水原くんは、何かを分かってるようだった。



「今年の風凪のピッチャー、球はあんま速くないけど、スライダーとか凄いと思う。夕ヶ丘にも頑張れば勝てる実力」



水原くんが、あまりにも楽しそうな笑顔で話す。



水原くんが楽しそうなのは、私も嬉しくなる。



でも、なんでだろう。胸が締め付けられるように痛い。



そんなに野球のことについて楽しく話すのに、なんでやめたの?



吉春くんが言ってた言葉を思い出す。



ーー『水原流矢はそれで良かったんかな』



水原くん。野球やめて、良かったの?



夕ヶ丘の監督さんも、水原くんが欲しいって、言ってるんだって。



私がもしこう言ったら、水原くんは野球をまたやる?



私、見てみたい。



水原くんが野球やってる姿を。