そう言うと、水原くんは嬉しそうに笑った。



「良かった。じゃあ行こう。試合11時からだから」



今は10時半。あと30分か。



今はもう、球場入りしたくらいかな。



「夕ヶ丘は野球が強いから、見応えあるかなって思ってさ。しかも相手は風凪だから、見たくなった」



球場まで歩いていると、水原くんは今までに見せたことがないくらいの笑顔で話す。



そんな表情するってことは、やっぱりまだ野球が好きなんだ。



なんで、やめたの?それに、夕ヶ丘からの推薦きてたのに蹴ったって…



「水原くん、野球に詳しいよね。やってたの?」



気になって、つい遠回しに聞いてしまう。



だけど水原くんは、一瞬だけ表情を固まらせて、すぐに小さく笑った。



「やってねーよ。好きなだけ」



やってない、か…



私は水原くんが野球をやっていたことを知っているから、嘘をつかれてると思うと悲しくなる。



それくらい、言えないことなんだ。



「中学の時は、何部だったの?」



聞いちゃいけないって、頭では理解してるのに、言葉が止まらない。



水原くんは黙る。



そして、口元だけ微笑んだ。



「入ってなかった。面倒かったし」



私はなにも言えなかった。



なんて声かければいいの?



私には、分からなかった。









球場につき中に入ると、応援団や地元の人、それぞれの高校の生徒が、もうすでにいた。



思ってた以上に人がいてビックリ。



私と水原くんは、前の方の空いているスペースに座る。



水原くんは球場をグルリと見渡す。



その表情が、やっぱり悲しそうだった。