「でも俺、さっきはさすがにしつこかったよな。祐介にも謝らないと」



吉春くんは苦笑いすると、スポーツバックを肩にかけて立ち上がった。



そして、私を見て少しだけ笑う。



「真湖ちゃんもなんかごめん。うるさかったよな」

「大丈夫だよ。私も水原くんが野球ゆめた理由、気になったし」



私がそう笑うと、吉春くんは安心したように笑った。



「じゃあ、そろそろ帰るか。俺は緋奈乃送っていくから、蒼は真湖ちゃん送ってってやって」

「分かった。じゃあ、真湖ちゃん行こう」



お金を払って、私は蒼くんと、緋奈乃は吉春くんと別れて、帰った。






「真湖ちゃんの気になる奴って、もしかして水原?」



帰り道。



蒼くんと並んで歩いていると、突然蒼くんがそんなことを言い出した。



いきなり聞かれるもんだから、私は足を止めてしまう。



水原くん…



今、何してるんだろう。



野球やってたんだね。見てみたいな。水原くんが、ボール投げてるところ。追いかけてるところ。



もうやらないのかな。私ももったいないと思う。強かったんでしょ?



野球、好きじゃなかったのかな。ただなんとなく、やってただけなんかな。



水原くんの気持ちなんて分からない。



分からないけど…



水原くんのことを考えると、視界がボヤけてきた。



「…図星?」



私はきっと、水原くんのことが気になってるんだと思う。



好きではない。ただ、気になる。



黙ったままの私を見て分かったのか、蒼くんは力なく笑った。



「そっか。でも、俺は諦めないよ。そんなんで諦めるような男じゃないから」



蒼くんは私のところまで歩み寄ると、私の手をギュッと握ってきた。



ビックリして離そうとするけど、男の蒼くんには力が叶わない。



そのまま蒼くんは私を引っ張る。



気付けば、私は蒼くんの胸の中に抱きしめられていた。