「しかも、怪我とかしてないのに野球やめたって。俺、水原流矢見たことないけど、中学の時から知ってた。確か、隣町の野球チーム入ってたよな?」



吉春くんの質問に、祐介くんはずっと黙っている。



それも、何か考え込むように。



「祐介、水原流矢と同じ中学だろ?野球やめた理由とか知らねぇの?」



吉春くんと蒼くんは、真剣な表情で祐介君を見る。



確かに私も気になる。



怪我もしてないのにやめるって…何があったんだろう。



「いっつも監督が言うんだよ。水原がいれば、もっと強かったはずなのにって」

「そうそう。水原が欲しいって、ずっと言ってるよな」



吉春くんと蒼くんが話を進める中、祐介くんだけは浮かない顔をしていた。



「水原流矢って、確かピッチャーだったよな?サウスポーだったような…」

「サウスポーだよ。もし夕ヶ丘きてたら、間違えなく今エースだったよ」



そんなに凄かったんだ…



それなのに、なんで?



今なんかもう、野球をやっていた面影なんて全然ない。



髪の毛もふわふわで、茶髪で。



「水原流矢、なんでやめたんだろ」

「やっぱり怪我したんじゃないの?」

「それはないない。だって、水原流矢って本当は夕ヶ丘来る予定だったんだけど、いきなり推薦蹴ったって…」

「うるせーな!」



さっきまで考え込むように黙ってた祐介くんが、今まで見たことがないくらいに怒鳴った。



さすがの吉春くんも蒼くんも、驚いている。



私と緋奈乃も、一瞬肩がビクっと跳ねた。



祐介くんはハッとしたような表情をして、すぐに笑顔を浮かべる。



そして、片手で謝るような仕草をした。