「でもね、真湖。別に否定してるわけじゃないよ?ただ、真湖のためを思ってなんだけど…」



さっきまで興奮していた緋奈乃が、急に真面目な顔になるから、私も背筋を少しだけ伸ばす。



緋奈乃は一回咳払いをして、私の瞳を真っ直ぐに見た。



「流矢くんのことは、好きにならない方がいいと思う」

「…えっ?」



水原くんを、好きになっちゃダメ…



「いや、まず好きじゃないから」



私が笑い飛ばしても、緋奈乃の表情は変わらない。



むしろどんどん険しくなるから、私も俯く。



「今好きじゃなくても、これから先好きになっちゃダメ。真湖が辛くなるだけだから」

「うん…」



頷くことしかできない。



なんで緋奈乃は、そこまでして否定するんだろう。



緋奈乃は否定してるわけじゃないって言ってるけど、もしかして、緋奈乃は何か知ってるとか?



「なんでいきなりそんなこと言い出したの?」



私が聞くと、緋奈乃は少しだけ苦笑いを浮かべる。



そして、前かがみになって、私の耳元で小さい声で言った。



「同じ塾の子で、流矢くんと同じ中学だった子がいるの。その子から聞いたんだけど」

「うん?」

「流矢くん、中3の時に…」

「緋奈乃!」



緋奈乃が何か言おうとした時、タイミング悪く吉春くんが来た。



緋奈乃は何か言いたそうな顔をしたけど、スッと離れて吉春くんに笑顔を向けた。



「吉春!部活お疲れ」

「ありがとう」



ふたりが仲睦まじく微笑む。



私はそんなふたりをボンヤリ見ていた。



緋奈乃は、何を言いかけたんだろう?



気になって気になってしょうがない。



水原くんが、中3の時に…なに?



「真湖はこっち!」



考え事をしている私の腕を、緋奈乃が無理矢理引っ張る。



私は緋奈乃の隣に座らされ、緋奈乃の向かいに吉春くんが座った。



…考えるのはやめよ。今はこっちに集中しなくちゃ。



そう自分の中で決め込んだ時、私の目の前に誰かが座った。



…この人が、私に紹介したい人か。