「あぁ〜もうっ‼︎」



自分の部屋のクローゼットを開けて、私はイライラしながらブツブツ呟く。



ついこの間、楽しみな夏休みを迎えた。



そして今日は、夏休み始まってすぐの水曜日。そう。緋奈乃が男を紹介してくれるという約束の日。



いや、男を紹介してくれるっていうのも嫌だな…吉春くんの友達を紹介してくれるってことで。



私は別に、紹介してもらうからと言って、気合いとか何も入っていなかった。



だけど…さっき緋奈乃からきたラインのせいで、何でこんなに悩まないといけないのよ‼︎



《オシャレしてきてね♪しないとどうなるか分かってるよね⁇》



オシャレしてきてって…私、制服で行こうとしてたくらいなんだけど。



何着てけばいいの?



クローゼットから服を取り出して、ベットの上に広げて、悩むこと10分。



目を閉じて適当に取ったものにしよう、と決め込み、目を閉じた時。



「おいチビ〜」



そんな声が聞こえたと思ったら、ドアが開く音がする。



目を開けてドアの方を見ると、夏休みのため一週間帰ってきたお兄ちゃんが、スウェット姿に寝癖のついた髪で私の部屋に入ってきた。



お兄ちゃんは大学野球だから、坊主じゃなくなり、髪の毛はツンツン立っている。



その髪の毛は、寝癖によってぺったんこだけど。



「勝手に入ってこないでよ!てか、チビじゃないし」

「はあ?まだチビだろー」



お兄ちゃんはたまに、私のことをチビと呼ぶ。



私はチビではないんだけど…



157はあるし。



「ていうか何?私忙しいんだけど」

「“大好きなお兄ちゃん”が帰ってきたのに、その態度は酷いよなあ」



大好きなお兄ちゃんとかありえないし!



お兄ちゃんとはいつもこうなるから嫌だ。まあ、いいお兄ちゃんだとは思うけどさ〜…



お兄ちゃんは私の部屋をキョロキョロ見渡す。



そして、私のベットの上に散らばっている服たちを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。



「真湖〜。忙しい理由は、彼氏か?ふーん、お前みたいなヤツでも、彼氏ができるんだな」



「趣味が悪いヤツ彼氏だな」と、お兄ちゃんは押し殺すように笑う。



…腹立つ。



ていうか、彼氏いないから!