「流矢くんと話すようになって、好きになっちゃったんだ?」



…はあ?



「違うから!好きになるわけないし!」



急いで否定するのに、緋奈乃はまだ怪しそうに微笑むだけ。



「好きじゃないんね?じゃあ、新しい恋探さないと!てことで、吉春が紹介してくれる男の子に会わなくちゃ」

「でも、その子が私のこと好きになるとは限らないし」

「いいのいいの!会って話してみるだけで。ね?吉春も楽しみにしてるっぽいし」



吉春くんも楽しみにしてるって何だよ!



でも、ここ半年くらい吉春くんと会ってないし、たまには会ってみたいかも。



私は吉春くんと久々に会いたいという理由で、その予定を承諾した。



夏休みまであと残り一週間。



今年はどんな夏休みになるんだろう。







体育の時間も終わり、今は放課後。



私は日直のため、ひとりで教室に残っている。



緋奈乃はバイトのため早く帰った。



バイト…私もやった方がいいのかなあ。



でも、人と話すのが得意なフレンドリーな緋奈乃は、接客とかそういうのが得意なんだと思うけど、



私は少しだけ人見知りしちゃうから、接客とか下手なんだよね。



そんなことを思いながら日誌を書き進めていると、隣からもの凄い怒声が聞こえてきた。



「……なんだよ‼︎」



…なに?



どう考えても、聞こえてきたのはA組から。



私はシャーペンを机の上に置いて、廊下に出た。



廊下に出て、私は目を見開いてしまった。



A組のドアの前に、水原くんが立っていたから。



水原くんはB組からは遠いところに立っているから、私には気付いていない。



水原くんは教室の中を無表情で見ていて、私も気になりA組の中を覗く。



A組の教室の中には、数人の女子。



その女子たちに囲まれるように、木原さんが座り込んでいた。



その中でも強そうな女子が、木原さんの綺麗な黒髪を引っ張る。



でも、木原さんは表情を変えることなく、させるがままにされている。



…なんで、そんな酷いことができるの?



木原さんも、辛くないの?